学生の皆さんへ
研究室の紹介
我々といっしょに南極海の生態系について研究してみませんか。チームに入る方法はとっても簡単。まずは、海洋大か総合研究大学院大学極域科学専攻に入学し、茂木先生か小達先生の門をたたいてください。また、創価大学、名古屋大学、北海道大学の皆さんは、下に示した先生方にご相談ください。
東京海洋大学の学生さんは、茂木先生が随時訪問を受け付けています。総合研究大学院大学に入学希望の場合は、小達先生にメールで訪問希望をお伝えください。また、学外から海洋大の大学院や総研大へ入学を希望される方は現在の指導教員と十分に話し合うようお願いいたします。
- 東京海洋大学 茂木正人
masato<アットマーク>kaiyodai.ac.jp ※<アットマーク>は@に変換してください。 - 総合研究大学院大学極域科学専攻 小達 恒夫
https://www.nipr.ac.jp/research/group/biology.html - 創価大学 黒沢 則夫
https://www.soka.ac.jp/faculty-profiles/norio-kurosawa/ - 北海道大学 綿貫 豊
https://researchers.general.hokudai.ac.jp/profile/ja.eh9ZX6nYPZGGvFUse2GUpA==.html
研究室に入ったら
各大学で異なることもありますが、海洋大の場合を少しお話します。
海洋大では3年次の12月上旬に研究室の配属が決まります。翌春から卒業論文研究が始まりますが、すぐに南極に出かけることはありません。残念ながら南極海に一緒に行くのは大学院生のみとしています。これにはふたつ大きな理由があります。
ひとつは、南極海のことを勉強し始めたばかりでは南極にでかけても、楽しさよりもつらいことのほうが勝ってしまうからです。
1年半以上、研究室に蓄積されたサンプルやデータと向き合ったり論文を読み漁ったりして南極観測の意義や動機を膨らませてから、万を持していざ出港!となれば、寒くつらい観測にも耐えられる、というわけです。
もうひとつは安全のためです。海洋大では学部のころから乗船しての海洋学実習などがありますが、それでも十分に経験を積んだとはいえません。南極海の観測は通常1ヶ月程度の長い航海となり、不慣れな船の生活は大きなストレスとなり疲労も蓄積し、大きな怪我の原因になります。
もちろん観測の失敗も許させません。そのため、4年生のうちから海鷹丸や青鷹丸の国内航海の機会を利用し、観測の練習や観測機器のテストを行いながら船の生活を経験し南極観測のシミュレーションを重ねます。そして、多くの学生は修士1年の1月ごろに南極海デビューとなります。
博士後期課程に進学する場合には、複数回南極航海に参加することもあります。
参考までに2018年度の所属学生の卒業論文と修士課程の学生の研究のタイトルを下に示します。
卒論・修論タイトル
卒業論文
南大洋ビンセネス湾沖におけるサルパSalpa thompsoniの摂餌行動
南大洋ビンセネス湾沖における動物プランクトンの群集構造と海鳥類の分布
アデリーランド沖および昭和基地沖におけるBathylagus antarcticus稚魚・成魚期の食性
修士論文
南大洋インド洋区における食物網ベースラインの特徴と食段階構造
南大洋季節海氷域における浮遊性有孔虫の生活史についての研究
南大洋ウィルクスランド沖におけるマクロ動物プランクトンの摂餌に関する研究
夏季南大洋季節海氷域における植物プランクトンの空間分布
夏季の南極海における水中でのアイスアルジーの増殖
南大洋インド洋区におけるハダカエソ科仔稚魚の分布と食性
夏季南大洋表層における動物プランクトンの水平分布
南大洋インド洋区における小型カイアシ類の群集組成および鉛直分布
夏季の南大洋季節海氷域における海氷性カイアシ類の放出と減耗
研究紹介
ハダカイワシの赤ちゃんは何を食べている?
東京海洋大学大学院 海洋科学技術研究科 博士後期課程2年 韮塚諭
『南極海の生き物』というと、皆さんは何を思い浮かべますか。ペンギン、アザラシ、クジラなどでしょうか。南極海には他にも、数マイクロ~数ミリメートルの大きさの植物・動物プランクトンや、魚類なども生息しています。これらの生物は、『食べる―食べられる』の関係を中心に、互いに影響を与え合っています。例えば、何らかの環境変動により、ペンギン類の餌となる生物群が減ってしまったとします。すると、将来的に餌不足でペンギン類の個体数も減ってしまうかもしれません。もしくは、餌を求めて、ペンギン類が普段とは異なる海域に移動するかもしれません。現実には話はそう単純ではありませんが、生物の分布と量は、周りの環境に影響を受けて変化します。
ペンギン類、アザラシ類、ハクジラ類といった、南極海における高次捕食者の一部の種は、ハダカイワシ科(以下、単にハダカイワシ)の魚類を主な餌のひとつにしています。高次捕食者の個体群規模が変化する原因を特定することは、南極海の生態系を理解し保全していくうえで重要な課題です。その際、高次捕食者の餌であるハダカイワシの生態を理解することは、ある変化が食物連鎖を通じて生態系全体にどのように影響するのかを知る手掛かりになります。
私はElectrona antarctica(エレクトロ―ナ アンタークティカ)という種のハダカイワシ(写真1)に注目して研究を行っています。この種は南極海のハダカイワシの中で最も生物量が多いため、生態系の中でより重要な働きをしていると考えられています。しかし、E. antarcticaが仔魚(卵から生まれた直後の成長段階)のときにどんな生活をしているのかはほとんど分かっていません。仔魚は遊泳能力が低く、捕食者から逃げることや、餌を捕まえることが上手ではありません。そのため、魚類の一生を通じて、仔魚期は死亡率の最も高い時期のひとつです。特に、飢餓の有無は仔魚の死亡率を大きく左右します。仔魚の餌が何であるかを知ることは、仔魚の主な死亡要因を理解することに繋がる課題といえます。
私がE. antarctica仔魚の消化管の中を調べてみたところ、細かく砕かれた植物プランクトンの殻が頻繁に見つかりました(写真2)。これらの破片の多くは、凝集して塊状になっていました。一方で、E. antarcticaの仔魚には、食べた餌をかみ砕くような歯は発達していません。つまり、仔魚は植物プランクトンを直接食べてかみ砕いたのではないと予想できます。例えば、他の生物の食べ残しや、その糞など(これらはマリンスノーに含まれます)を食べている可能性があります。研究の次のステップとして、具体的にどんなマリンスノーが仔魚の餌に適しているのかを調べる必要があります。これから研究を進めていくことで、どのような条件が整えば、仔魚の餌環境が充実し、飢餓による死亡を免れることができるのか、という答えに迫ることができるでしょう。E. antarctica仔魚にとって有利な環境は、もしかしたらハダカイワシを餌とするペンギンやアザラシにとっても有利な環境かもしれません。ペンギンって可愛いですよね。(2019年8月)
写真1. Electrona antarcticaの仔魚(卵からふ化した直後の成長段階)。体長15 mm。
写真2. Electrona antarctica仔魚の消化管内から見つかった珪藻(植物プランクトン)の殻。殻は細かく砕かれ、マット状の有機物で互いに凝集している。